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第四回会合 2015.9.4金融教育を取り巻く世界的背景と目指すべき方向性について

第四回会合 2015.9.4金融教育を取り巻く世界的背景と目指すべき方向性について (出席者:柳澤、圦本)

女性がキャリアと結婚出産の両立を成功させるには、逆説的ですが経済力が必要です。家計に余裕があり、将来のライフイベントを乗り越えられる資産形成の目途が立っていれば、安心して産休育休に入り、一旦子育てに専念する期間を取った後、本腰を入れてキャリアップを目指す時間的余裕を手にすることができます。
一方、女性の収入がないと家計が成り立たない状態がずっと続くことが想定されるのであれば、出産に二の足を踏んでしまう方も増えてしまうでしょう。その面において、労働収入(稼ぐ)のみに頼らず、運用収入(お金に働いてもらう)を資産形成に取り入れることの重要度は増してきているといえます。
先月弊社で女子学生のインターン受け入れを経験したことがきっかけとなり、大学における金融教育現場では、キャリア形成と資産形成の関係をどのように教えているのだろうと興味が湧いてきました。
そこで、9月12日千葉商科大学で開催された、日本FP学会第16回大会に圦本が出席し、勉強をさせていただきました。本日の会合は、主にFP学会パネルディスカッション「大学における金融教育―大学生の生活に即した金融教育の手法とソーシャルファイナンス視点の導入―」の要点共有と、私たちの考える課題のブレストとなりました。

【大学における金融教育を取り巻く世界的背景】
①リーマンショックで世界中の人が経済的打撃をうけたため、2012年G20ロスカボス・サミットで、「各国が国策として国民の金融教育を進めていきましょう」という明確な方針が打ちだされた。
OECD/INFE(経済協力開発機構 金融教育に関する国際ネットワーク)「金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」2012年6月G20で承認
http://www.shiruporuto.jp/teach/consumer/oecd/pdf/oecd001.pdf

②その背景もあって日本では2012年11月に金融庁金融経済教育研究会が設置され、2013年に「最低限身に付けるべき金融リテラシー(4分野・15項目)」を発表した。
「最低限身に付けるべき金融リテラシー(4分野・15項目)」http://www.fsa.go.jp/news/25/sonota/20131129-1.html

③金融経済教育研究会は更に、金融リテラシーを小学生~高齢者までの段階で身に付けるべき内容指針を、金融リテラシーマップとして公開している。
金融リテラシーマップ「最低限身に付けるべき金融リテラシー」の項目別・年齢層別スタンダードhttps://www.shiruporuto.jp/teach/consumer/literacy/pdf/map.pdf

④この指針を踏まえ、大学での金融教育が今一つの焦点となりつつある。
(現在、小学生から導入されている金融教育を体験せず社会人になる世代を大学でフォローするというねらいもあるように理解しました)

これらの情報を踏まえて、今回の会合では、FP相談の現場での経験から、気になる点と理由を考えました。

気になる点①
貯蓄ゼロ世帯の増加に伴い、貯蓄の意味や運用の意味、カード・ローン・クーリングオフ・社会保障の知識を伝えることで社会人としてお金に対する一定の見識をもって生活し、知らないが故に大きな家計ダメージを受ける人を減らすという守りの教育的には重要で、一定の効果があると考えられる。

気になる点②
ただ、注意点の教育内容に占めるボリューム・インパクトが大きくなりすぎた場合、大きくリスクを取ってチャレンジすることが、時には素晴らしいことであり、自他のチャレンジを応援すべきという観点とのつながりが弱くなる懸念が考えられる。

運用に限らず、就職・結婚・出産など人生の選択は全部リスクが伴い、コントロールしようがないことも多い。それでも前に進むときに、もしうまくいかなかったときの軌道修正の仕方の知識提供を受けていれば対処法が分かり、致命的なダメージを被らなくて済むことも多いだろう。思いっきりアクセルを踏んで前に進むために、リスクに対する智恵のブレーキも必要だが、リスクを避けて誰もアクセルを踏まなくなると、社会全体、国全体が衰退していく。そのバランスが取れた金融教育が望ましいが、可能なのか。
・金融リテラシー向上の活動の一方で、官民を挙げて若年層・シニア・女性の起業支援にはとても力を入れている。新しい価値や産業を生み出す人が増えなければ、加速する少子高齢化を背景に、2020年オリンピック以降の日本経済には悲観的なシナリオが進んでしまう可能性が高まっており、自己投資の一環として自己責任での起業に踏み切ったり、新キャリアを目指したりする力を引き出し、応援する教育現場での理論が必要。

・起業も含めたキャリア形成奨励と金融リテラシーを身に付けるパーソナルファイナンスとをつなぐロジックを創れれば、学生たちがポジティブに自分や世界に対して新価値を生み出しながら経済力を手にしやすくなると同時に、お金に振り回されずに活かす智恵をもって、よりよい生活・健全な生活を送ることができるのではないか。

現在のパーソナルファイナンス教育は、今あるお金、入ってくることが当然のお金を前提としての使い方、活かし方の(精神的価値を含めた)技術として普及が始まっているように見受けられるが、安定した収入や安定して受け取れる公的年金、という前提が崩れたときにどうするのか、また崩れないように各人が努力することはできるのか、という観点が含まれていない。これは他の国ではどのように解決しているのか。

・オーストラリアのパーソナルファイナンス教育では、中学生辺りで、地元の商店などと連携して、実際の起業体験をさせてしまう、ということを実施しているらしい。
(今後詳しく調べて行く予定)

知ることと実体験することで、起業や社会で起きている経済循環への理解が増し、新しいことにチャレンジする心理的垣根を下げ、キャリアデザインを実行する際のリスクを減らす効果が期待できるので興味深い取り組みだと思う。

今後広がっていく大学の金融教育の流れの中に、お金を人生の自由度を上げる手段として使いこなし、自助努力の精神を最大の元手として、ワクワクして人生を切り拓いていこう!と思ってもらえる要素を盛り込めるとよいな、そのためにお手伝いできることを模索していきたいと考えます。